「いやだ! 姉さんと一緒にいたい!」
そう言いながらしがみついて離れない弟を、私はただあやしながら説くしかなかった。
「姉さんも一緒に行こうよ、そうすれば…」
「ごめんね、私は一緒に行けないの。私が行くのは戦場だから…」
「いやだいやだ!
戦場は怖いところだよ、行ったら姉さん死んじゃうよ!」
「戦場といっても、表立って戦う訳じゃない、お侍を相手にする訳じゃない。裏で少しでも味方が戦いやすくなるようお手伝いをするだけ…だからまだ安全なところなのよ」
それは嘘だった。例えそうだとしても、そもそも戦場に安全な場所なんてありはしない。
けれど涙でぐしゃぐしゃになった弟の顔を寄せ、しゃくり上げている肩を強く抱く。
「…大丈夫、戦が終わったらすぐにでも迎えに行くから。だから、良い子で待っていて――ね?」
「…うん…」
泣き止まないまま、それでもおそるおそる――名残惜しむように離れた弟に、私は精一杯の笑みを向けて牛車に乗せた。
「お侍様、どうか弟をよろしくお願い致します」
「承知。…任せられよ」
深々と下げた頭に、弟の横に座ったお侍様の声が落ちてくる。
行け、と声が続けば、牛車が動き出す音。
「姉さん!」
弟の悲鳴にも似た別れの声が聞こえてきて、思わず頭を上げた先、弟が必死になって手を振っていた。
「必ず…必ず迎えに来てね!!」
「うん…必ず行くから、それまで…」
待っていてね、そう繰り返し、遠くなる牛車を背に私は私の道を目指そうと歩き始めた。
その後も背に弟が呼ぶ声が聞こえたけれど、振り向いてはダメだと自分に言い聞かせる。
振り向いたら泣いてしまう。
私も、これが弟との今生の別れになりそうで胸が不安で一杯だから。
だから、堪えて涙を飲んで走った。
この先で待っている、私を『雇った』お侍様の元へと。
――あれから数年。
「本丸が落ちるぞ!!」
「掴れ! この身ならばお主一人は連れて行ける!」
「―――諦めてたまるものか…!」
「…このような娘までもが…」
最後の戦場、覚えているのは仲間の紅蜘蛛と共に脱出したこと。
途中意識を失い、感じたのは落下の衝撃。
おぼろげに聞いたのは侍の声。
開けた視界に飛び込んできたのは診療所の天井。
そこで私は、長い戦が終わりを告げたのを知った。
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